体育系の部活は、夏に3年の先輩が引退する。しかし、吹奏楽部や演劇部などは、校内の文化祭で活動があるので、3年の先輩が引退するのは、その後になる。
そして、ここは、演劇部の引退式。

「先輩、お疲れ様でした・・・!」 「ぜひ、見に来てくださいね!」

『これからは、自分たちの代だ』と張り切っている者、『もう、先輩と活動できない・・・』と嘆く者、あるいは『先輩がいなくなった』と清々している者も。様々な思いを胸に、1・2年の後輩たちは、先輩に花束を渡していた。

「ありがとう。」 「これからも頑張って!」

3年もまた、様々な思いを胸に、花束を受け取っていた。
そんな感動の引退式だったが・・・・・・。

ちゃん。」

引退式が終わった後、ある所に行こうとしていたは、さっき引退した、3年の先輩に呼び止められた。

「橋山先輩。・・・どうかしましたか?」

例の橋山だった。

「聞いたんだけど、ちゃん。跡部君と付き合ってるらしいね。」
「付き合ってるわけじゃ・・・・・・。」

実は、この前、映画の話で盛り上がってから、校内でも話すようになり、下校も共にするようになった。そして、跡部から付き合おうと言われたのだ。しかし、まだ返事はしていない。だから、付き合っているわけではない。だが、そんなことは知らない周りから見れば、付き合っているように見えるのも無理はない。

「隠さなくてもいいよ。みんな言ってるんだから。今も、テニス部、見に行こうとしてたんでしょ?」
「そうですけど・・・。」

そう、さっき言っていた、ある所とは、男子テニス部が活動している、テニスコートだったのだ。

「跡部君で、いいの?跡部君も女好きだ、って噂がよく流れてるよね。・・・って、跡部君『も』って言ったけど、他に誰もいないか。」

そう言って、橋山は微笑していた。

「跡部先輩は、そんな人じゃないです。」
「跡部君『は』ね・・・。でも、そんなのわからないよ。この前だって、3年の先輩に遊ばれていたらしいじゃん、ちゃん。」
「・・・・・・・・・。」

は、黙った。

「ひどいよね。あんなにちゃん、ちゃん、って言ってた奴が、本当は他校に彼女がいたなんて。」

橋山は、可哀相だね、と同情・・・いや馬鹿にしていた。も黙ってばかりではなかった。

「でも、1度も好きだ、とか言われてませんし、別に彼女がいても、気にしてませんよ。」
「そう。でも、悲しくて、淋しくて、それを紛らわそうと、跡部君と付き合ってるんじゃないの?」
「だから、付き合って・・・・・・!」

付き合っていない、そう言おうとした時、橋山が言った。

「そこは否定するんだ。でも、紛らわそうとしていることは、否定しないんだね。・・・それじゃあ。もう、話す機会、無いかもしれないけど。」

そう言って、橋山は去っていった。

「・・・・・・。」


次の日・・・。

現在は放課後。大抵の生徒は部活動をしている。・・・あるいは、見学。と言っても、見学している人数も、活動している人数も、最も多いのが男子テニス部である。・・・そして、最も多い声援は・・・・・・。

「キャー!跡部様〜!!」 「跡部先輩、素敵〜!!」 「頑張って!跡部様!!」

跡部ファンの女子の声援だろう。もちろん、静かに見学している者もいるわけで・・・。

「(すごいな、跡部先輩・・・。)」

そう思っていたのは、最近、見に来るようになった、だった。

「あれ?自分。跡部が目、つけてる子やん。」

いつものように、見ていると、後ろから、関西訛りの男に話しかけられた。

「あなたは・・・、たしか・・・・・・。」

たしか、この人もレギュラーだったけど・・・、とは考えていた。すると・・・。

「マジ?コイツが跡部のお気に入り?」

さらに後ろから、小さいおかっぱ頭の男が出てきた。

「あの・・・・・・。」

が戸惑っていると、関西訛りの男がこう言った。

「悪い、悪い。急に話しかけて。俺は、2年の忍足 侑士。以後、よろしゅうに。」

忍足と名乗った関西訛りの男に続いて、おかっぱ頭の男も名乗った。

「同じく2年、向日 岳人!よろしく。・・・っても、跡部のお気に入り、だしな〜。」

忍足、向日。2人とも、は聞いたことがあるらしかった。

「お2人とも、正レギュラーの人ですよね?よろしく、お願いします・・・。・・・・・・というか、その『跡部先輩のお気に入り』って何なんですか?」

しかし、はまだ戸惑っていた。それは、「跡部のお気に入り」という言葉が原因だった。

「あぁ。だって、お気に入りやん。跡部、この前の文化祭の時から、目つけてたんやで?」

と、忍足は説明した。すると・・・。

「「え?」」
「本当ですか?」 「マジかよ?!」

と向日は、同時に驚いた。

「岳人、知らんかったんや・・・。」
「文化祭の時からか〜。それは、知らなかったな〜!お前、スゲーな。」

向日は、本当に知らなかったようだ。それなら、なぜ「跡部のお気に入り」だと言って、はしゃいでいたのだろうか・・・。

「というか、それ、どういうことなんですか?忍足先輩。」

は、向日のことを気にせず、というか気にする余裕も無さそうに、急いで忍足に聞いた。

「えっ。いや、この前の文化祭で、自分、脇役やったけど、演劇部の劇に出とったやろ?それで、跡部が・・・。
 『あいつ、いい表情してやがるな。』
って言うとってん。」
「それは、お気に入りでも、何でもないんじゃ・・・。」
「普通、脇役をそんな注目、せーへんやろ?実際、俺らも最初は、どの子のことを跡部が言うてんのか、わからへんかったしなぁ。」
「そうだったんですか・・・。」

はそう言いながらも、何かを考えているような表情だった。

「?まぁ、跡部の奴、あぁ見えて一筋やし、結構えぇ奴やから・・・。」

忍足は、が何かを考えていることが気になったが、あえて聞かず、友達の恋の応援をすることにした。

「・・・そうですね。」

そう言ったの表情は、納得しているという風には見えなかった。さすがに何があったのか、と忍足が聴こうとしたが、後ろから話しかける者にさえぎられた。

「よかったね、ちゃん。」
「・・・橋山先輩。・・・・・・どうしてここに?」

そう、また橋山だった。

「いや、最近、ちゃん、元気ないから。気になって。」

昨日「もう、話す機会、無いかもしれない」などと言っていたのに、そんなわけはない、とは思った。詳しい事情までは知らないが、噂で聞いた忍足と向日も、そう思っていた。

「その原因は、お前だろ?!」

そう、向日が橋山に言った。

「そうなの?ちゃん。」
「いえ、違います。」

は、キッパリと答えた。だから、本当に違うのだろう。

「じゃあ、なんで?」

本当に不思議そうに、忍足はに尋ねた。

「跡部君のこと、だよね?」

橋山がそう言った時、わずかにの表情が強張った。

「跡部が・・・?なんで・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」

忍足が不思議そうにしていたが、は何も答えてくれなかった。

「そういえば、あそこにいるの、跡部君?」

そう言って、橋山が少し離れた所を指さした。

「なんで、跡部・・・。」
「っていうか、アイツ、誰だよ?」
「あの人・・・。」

そこには、跡部・・・と、この前橋山の隣にいた、女がいた。

「どうして・・・・・・?」

すると、その女が跡部に抱きついた。
見ていられなくなったは、その場から走り去った。

「あ、ちょっと!自分!」

忍足が呼び止めたが、は無視して去って行った。

「くそくそ、跡部!何してんだよ?!」

そう言って、向日は跡部の方へ行こうとした。しかし、跡部の方から、こちらにやって来た。

「・・・ったく。」

とても不機嫌そうに来たが、そんなことはお構いなしに、向日が言った。

「おい!跡部、何してたんだよ?」
「あぁ?別に、何もしてねぇよ!・・・って、テメェ。何しに来た?」

怒りの矛先は、向日ではなく、橋山に行った。

「ちょっと、見に来ただけ。」
「じゃあ、なんでアイツがここにいるんだよ。」

アイツ、とは例の女のことだった。

「さあ。」
「とぼけてんじゃねぇ!」

そう、跡部が怒鳴ったが、忍足はそんなことより・・・、と跡部に言った。

「それより、さんが・・・!」
「・・・が、どうした。」

跡部の表情が、怒りから緊張に変わった。

「そういえば、ちゃん。さっきの跡部君を見て、向こうに走って行ったっけ?」

それを聞くと、跡部はものすごい勢いで走って行った。

「「跡部!」」

忍足と向日の声にも無視をした。そして・・・。

「疑ってゴメン〜。」

そんな女の声が聞こえた。

「だから、言ったでしょ。あの子は、俺と付き合ってなんかない、って。」

それは、あの女だった。

「でも、さっきの男の子も結構イケてるし、あの子には勿体無い、と思うけど?」
「あれ?浮気?」
「違うって〜!」

どうやら、女がと橋山が付き合っていないか、と疑っていて、橋山がそれを利用したみたいだった。
 「跡部君に抱きついて、あの子が嫉妬すれば、俺とは関係ない、ってわかるだろ?」
そんなところだろう。

「アイツ、最っっっ低!!」

去って行く、橋山の後姿を見て、向日はそう言った。

「それより、大丈夫やろうか・・・。」


は、かつて橋山と待ち合わせをした、あの場所まで来ていた。

「(私、こんな所まで・・・・・・。)」

無意識のうちに、ここに来ていたらしい。

「・・・跡部先輩・・・・・・。」

さらに、は無意識に跡部の名前を呼んでいた。そして、あの時のように、ここで泣いていた。すると・・・。

・・・!!」
「・・・跡部先輩。」

跡部が追いついたのだった。

・・・。」

しかし、泣いているを見て、跡部は何を言えばいいのか、わからなくなった。すると、が話し出した。

「私、跡部先輩のことが好きだ、ってようやく、わかりました。」
「・・・・・・急に、どうしたんだ?」
「前、跡部先輩に付き合わないか、と言われた時、最初は、はいと答えるつもりだったんです。だけど、私、橋山先輩にあんなことされた後だから、淋しさを紛らわすために付き合いたいだけなのかも、と思って・・・。それだったら、跡部先輩に悪いから・・・。・・・自分の気持ちに気付かないなんて、おかしな話ですよね?でも、橋山先輩にも、そう言われて・・・。だから、あえて、あの時、返事をしなかったんです。でも、さっき、跡部先輩があの女の人と話しているのを見て、嫉妬したんです。それで、私、跡部先輩のこと好きだ、って気付いて・・・。」
。」
「でも、もう遅いですよね?跡部先輩、もう私のことなんて・・・。」

橋山も言っていた、跡部も女好きだ、と。もう、違う女を愛しているかもしれない、とは思っていたのだ。

「勝手に決めんなよ。・・・それとも、俺がさっきの女のことを好きになった、とでも思ってんのか?」

跡部は、少し怒り気味に言った。

「そんなことは・・・。でも・・・。」

さすがに、橋山の女を好きになった、とはも思っていなかったようだ。しかし、まだ、は疑っていた。

「俺が、そんなに信じられないか?」
「そうじゃないです!でも、もう、あんな思い、2度としたくないんです・・・!だから・・・。」

は、あの時の悲しみを、初めて口に出した。

「バーカ。俺とアイツを一緒にすんじゃねぇ。・・・俺は、あんなことは絶対にしない。」

跡部は、そうキッパリと言って、を抱きしめた。・・・あの時のように。

「跡部先輩・・・。」
「・・・で、返事はしてくれねぇのか?」
「・・・・・・私でよければ、喜んで。」
「お前がいいから、言ってんだろうが。」

そうして、はまた、跡部の腕の中で泣いた。しかし、今回は悲しみの涙ではなかった。









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誕生日ネタで、すみません・・・。いや、誕生日は問題ないんですけど。冬に限定されちゃいますもんねぇ・・・。本当に、すみません。以後、気をつけます。
でも、とりあえず。めでたし、めでたし、です(笑)。
跡部さんは、本当は一途な人だと思います。劇で楽しそうに、努力しているヒロインを見て、それから、ずっと気になっていて・・・。そういうピュアボーイっぽいですね。
もちろん、女慣れしてる跡部様も好きですが(笑)。

それにしても。結局、向日さんが馬鹿キャラだ・・・orz
あまり触れませんでしたが、「First Love」でも馬鹿扱いされてて・・・。
くそくそ!『男前がっくん』を目指したいのに・・・!!(笑)




追記です。
久々に読み返したら・・・あとがきに「誕生日ネタ」って・・・。それ、次の話(番外編)のことだから!!もう、本当すみません・・・orz
ネタバレしちゃってますが、もしよろしければ、番外編も目を通していただけると、とても有り難いです・・・(苦笑)。

('09/03/27)